デマと知りながらデマを垂れ流している悪質かつ不審人物が多数います。騙されないように気をつけてください。

「陽性者のペットボトル1本分の唾液を浴びないと感染しない」はデマ

デマの内容

次のようなテレビの画像を出して

日本のCt値でPCR検査陽性になった人は、ペットボトル1本分の唾液を浴びせない限り、他の人に感染させない!

いままでの感染対策は全く必要なかった!

と主張する人がいますが、言うまでもなくデマです。

すいません テレビで 「日本のPCR検査のCt値では、ペットボトル1本分の唾液を浴びないと感染しない」 って言ってるんですけど 今さらなんすかこれ? マスクもソーシャルディスタンスも三密も 移動制限もイベント中止も黙食も 全く必要なかったってことじゃんよ 大問題だろ


https://twitter.com/Awakend_Citizen/status/1451569017513123845

解説

結論

すぐにデマと分かる話です。

人々がペットボトル1本分の唾液をかけあったわけでもないのに、日本では新型コロナの感染爆発が起き、数度の医療崩壊を経験し、大きな被害を出したのですから。

このデマ自体は幼稚でくだらない嘘ですが、上記ツイートで示されているテレビ番組のフリップが誤解を与えやすいものになっているのも事実なので、念のためPCR検査とCt値について簡単に解説します。

フリップの基になった正しい画像

番組が作成したフリップの右上に「※慶應義塾大学医学部の資料などを基に作成」と書いてある通り、

誤解を招く番組のフリップは、番組側が慶應義塾大学医学部の以下の画像を基に作成したものです。


COVID-19 に対する社会的 PCR 検査のコンセプトを発表

陽性者のCt値は人によって異なる

上記のデマッターは、日本のPCR検査で陽性になった人(検体)のCt値がすべて40だったと考えているようですが、それは間違いです。これは古くからあるデマの1つです。

Ct値(Threshold Cycle)とは設定値(固定値)ではなく、検体のウイルスを増幅する過程においてその増幅曲線が陽性基準値(しきい値、Threshold)と交差したときのサイクル数(Cycle number)のことです。

下図の緑線は陽性基準値(しきい値、Threshold)、横軸はサイクル数、縦軸はウイルスの増幅量を示す

「Ct値」「解離曲線」って何? リアルタイムPCR解析で用いられる用語まとめ

つまり、人によって体内のウイルス量は違うわけですから、その検体のウイルス増幅曲線は検体によって異なるものとなり、陽性判定時のCt値も検体によって異なります。

陽性になったAさんのCt値は17だったかもしれないし、BさんのCt値は20だったかもしれない、ということです。

上記ツイートで示されている下記のフリップ画像の左に表示されている「Ct値40」というのは、「(感染研推奨の)カットオフ値(陽性判定Ct値の上限)」を意味しています。陽性者の全員がCt値40ということではありません

日本で陽性判定された人のほとんどはCt値が35未満で陽性になっています。Ct値35~40で陽性になる人はごく一部全陽性の数パーセント程度)です。

番組側の誤解

番組が作成したフリップの基となった慶應義塾大学医学部の画像には、「Ct値40 🇯🇵陽性判定」などという誤解を招く記載はありません。

「人に感染させる唾液量」は番組側の誤解

番組で使われたフリップには、「人に感染させる唾液量」としてペットボトルやコーヒーカップが描かれていますが、これもフリップを作成した番組側の勘違いです。

フリップの基になったオリジナルの画像を見てみましょう(下図)。


COVID-19 に対する社会的 PCR 検査のコンセプトを発表

「感染が成立するウイルスレベル(Ct < 33 – 34)」とは書いてありますが、「人に感染させる唾液量」などとは書かれていません。ここを誤解しないように注意してください。

オリジナルの画像のペットボトルやコーヒーカップの絵は、そのCt値で陽性になった人のウイルス粒子100万個を含む唾液の量を示しただけ(ウイルスの濃さを他の陽性Ct値と比較しただけ)であって、人から人への感染に必要な唾液量を示したものではありません(感染に必要なウイルス粒子の量が100万個だとは言ってない)。

このことは、後述の「世田谷区で行われた78件のPCR検査データ」の画像にも、誤解しないよう注意すべきこととして記載されています。

国どうしでCt値を比べても意味がない

「あの国はCt値が##なのに、日本はCt値がXXだから、疑陽性ガーーー!」と言う人がいますが、間違いです。

まず、前述したように、ここで上記ツイート主などが言おうとしているのはCt値ではなく、カットオフ値(陽性判定Ct値の上限)のことです。

次に、Ct値や適切なカットオフ値というのは、プロトコル(試薬や機器の特性・条件等)によって変わるものなので、それらが統一されていない国どうしで比較しても意味がありません。

番組側の誤解

番組が作成したフリップの基となった慶應義塾大学医学部の画像には、台湾とのCt値の比較など書かれていません。

陽性判定後にウイルス量は増加する可能性がある

市中の感染者を見つける目的で行われるPCR検査の場合、仮に陽性判定された人のCt値が40だったとしても、体内のウイルス量が少ない(感染性が無い)から自由に歩き回っても良いということにはなりません。

なぜなら、PCR検査では、その人の症状がこれから悪化していくのか、逆に回復過程にあるのかを判定できないからです。

そのため、Ctの値に関わらず、PCR検査で陽性になった人には適切な感染対策が求められます。

それは「退院基準」の話

上記ツイートで示されているテレビ番組のフリップ画像の右上を見ると分かるように、この番組で議題になっているのは「退院時のPCR検査のカットオフ値(陽性判定Ct値の上限)」です。

新型コロナ患者の退院時のPCR検査で稀に陽性になる人もいますが、そのような回復後の患者で検出されるのはウイルスの死骸であり感染性がないため、退院時のカットオフ値を(市中での感染者を見つける場合と比較して)低めに設定しようという議論はおかしなことではありません。

ちなみに、退院時については、すでに、一定の条件を満たせばPCR検査なしで退院できるようになっています。

参考記事

「退院時にPCR検査が行われないのはPCR検査が不正確だから」はデマ

「退院時にPCR検査が行われないのはPCR検査が不正確だから」はデマ

参考

上記ツイートで示されているテレビ番組の概要

いつも「テレビの言うことを信じるな」と言ってる方達が信じたテレビ番組の概要記事を見つけたので載せておきます。ただし、この解説には間違い・誤解を与える表現が含まれているので注意してください。

BS-TBS 報道1930(2021/10/21放送)

退院可能なウイルス量・基準を検討
Ct値とウイルス量、人に感染させる唾液量の関係について説明(慶応義塾大学医学部の資料などより)。
台湾ではCt値が35より小さい(ウイルス量が多い)と陽性で、退院の基準はCt値30。
日本は厳しく、Ct値40で陽性とPCR検査で判定。
日本でもCt値等による退院基準を設けることが、厚労省・アドバイザリーボードで提起された。
この問題提起をした東邦大学教授・舘田一博は「厚労省から(退院基準の)通達が出ているが、実際には良くなって退院、転院させようとする時は、臨床サイドは検査をしてしまう。PCR陽性になると出しにくい。それが病床がうまく動かない一つの要因。それで、Ct値を使って、感染性があるかないか見分けられるようなカットポイントを見つけていこうという事。例えば、これだけでは難しいので、抗体が陽性になって、Ct値が30より大きければ感染性が低いという事で移動させる、そういう判断基準を考えるという事」とスタジオコメント。
鳥取県知事・平井伸治のスタジオコメント。
コロナ対策に関わる政府関係者のコメント文。
ペットボトル、コーヒーの表記。

陽性判定された人の様々なCt値(世田谷区)

以下は、実際に世田谷区で行われた78件分のPCR検査データの1つです。陽性者のCt値は様々であることが分かります。


社会的検査で陽性となった事例(78件)のウイルス量に関する報告書 令和3年5月 世田谷区

その他の参考記事

PCR検査における『Ct値』について|翡翠氏

https://note.com/kawasemi_no_hina/n/nd969f33674b7

【資料】total-cycleとCtとcut-off|伊賀 治 デマ撲滅ファクトチェック集

https://note.com/osamu_iga/n/n4f15cd1c8db1

「厚労省がPCRのCt値を35にこっそり下げた」はデマ(伊賀治氏)

https://note.com/osamu_iga/n/n0101754efb48

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